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その、夢の先

たまには物書き。

唐突に書きたくなるときもある。

 ゆっくりと目を開けて。
 静かに身を起こしてみれば、傍に眠る二人の姿を確認できて。
 ああ、そうかと。
 全部夢だったのかと、再度目を閉じる。
 不思議な夢を見た。
 とても、不思議な夢を、見た。


「ふぅん。どんな夢を見たんだ?」
 朝起きて、呟きを聞いたあいつは聞く。
「ただの夢だよ。変な夢」
 簡素に答えて、自分はさくさくと進み始める。
 深い森だ、一歩間違えれば確実に迷ってしまう。
 だというのに、先もわかってないだろうに先先と進む小娘がいるから、慌ててそいつの肩を掴んだ。
「下がれ。いや、隣にいてろ馬鹿」
「馬鹿とは何ですか。後下がれって言ったのを言い換えたのは、僕が迷うと思いましたね?」
 むっとして振り返り、でも言われたとおりに隣を歩き始めるそいつだが、愚痴愚痴とぼやくのはやめはしなかった。
 しばらくそれを聞かぬ振りして、先を進む。本当に迷いそうな森だ、区別のつかない、厄介な森。
 そういえば。
 何でこんな場所を歩いているんだろうか。
「どうした?」
 あいつが、不思議そうに尋ねてくる。立ち止まって振り返ると、いつもの顔。穏やかそうで、でも何処か人を食って掛かっているような。こっちがむっとしてしまう顔。
 やっぱりいつもどおり自分はむすっとしてしまったんだろう、あいつはふっと笑って、腕を組む。
「何だ、わけもわからず歩いていたような顔をして」
「してない」
「じゃあどうした?」
「知るか、馬鹿」
「口癖だな、それももはや」
 くすくすと、楽しげに笑う。森に溶け込むのではないかと思うそいつの髪が優しく流れて、同じ色の目が細められた。
 何だかむかついて、そっぽを向く。進んでいた方向へと進みなおした。
 さくさくと、振り返らずに進みなおして。二人も何も言わず自分についてくる。
 けど、何だろう。
 やっぱり、考え込みそうになる。
 何でだろう。
 不思議な感じがする。
「……少し、休みますか?」
 ふと、隣を歩く小娘が顔を伺ってきた。様子が変だと思ったんだろう、心配性の小娘だ。
「平気。夜が来る前に抜けないとだしね、進もう」
「でも……」
 まだ何か言いたそうな小娘に、けれど首を横に振ることで答え。
 再度、さくさくと進みだす。
 何処へ。
 一歩踏み出して、そんな言葉が浮かんだ。
 何処へ。そう、何処へ行こうというのだろう。自分は何処へ向かっていた?
 そう、何処へ歩いていく。森を抜けるため。抜けた先は何が待つ? 何で森の中にいるんだ。

 自分はいつ迷い込んだ?

 一歩を踏み出した姿勢のまま、立ち尽くす。前を向いていたはずなのに、いつの間にか地面を見つめていた。
 何か変だ。それはわかるのに、何が変なのか、わからない。
 何処かがおかしい。それがわかるのに、どうおかしいのかがわからない。
 どうして気づかなかったのか。疑問に思うことが無かったのは、何故。
「大丈夫……ですか?」
 心配そうに尋ねる、隣に立つ少女。薄紫の髪が揺れたのは、首を傾げたからか。三つの瞳が、ただ不安げ。
 大丈夫と答えたい。けれど、何かが邪魔をする。何だろう、何が自分を悩ませる。
 一体、何が。
「……考えると深みにはまる。考えすぎはよくないぞ?」
 ふと、後ろから声。
 顔を上げて振り返ると、いつものあいつが立っている。そう、いつも言われた言葉。自分が思い悩むといつだって、あいつはそう言って僅かに微笑していた。ただ、優しく見つめて。
 安堵する。そうだ、考える必要も無い。ただ進んでいけばいい、そうすれば森から出られる。先へ進める。
 進んだ先に、何があるのかわからなくても?
 それでもいい。きっと何かがあるんだから。
 そう、きっと……。

 でもそこに、彼らはいるだろうか。

「……はい?」
 不思議そうに、隣に立つ少女は聞いてきた。いや、尋ね返してきたのか。
 最初、どうしたのかと思ったが、なんてことはない。自分が何事かを呟いていたらしい。無意識のうちに、何でだろう。
「彼らって、誰です?」
 問いかける。でもその問いに、どう答えるべきか、わからない。
 彼ら。呟いた彼らとは、誰か。複数形だ、一人じゃない。多くの人、いや、少人数かもしれないが。
 自分は一体誰のことを言ったのだろうか。
「君は会いたいのか、その彼らに」
 僅かに首をかしげ、あいつが尋ねてくる。その問いにも、どう答えていいのかがわからない。
 ただ、首を横に振りたくは無くて。
「むう。やっぱり今日は様子がおかしいのですよ。大丈夫なのですか、本当に」
「変……なのかな、やっぱり」
「変ですよ。何かあったのですか?」
 少女の問いに、眉をひそめて。しばらく、考える。
 起きたときからずっと二人と一緒にいた。それ以外には、何も無い。
 そう、何も……いや、違う。
「夢」
「はい?」
「……夢を見たんだ」
 とても不思議な夢を。
「どんな夢だったのですか?」
「どんなって……」
 聞かれ、内容を思い出そうとして、しかし不思議な夢だったとしか思い出せないことに気づく。
 どう不思議だったのだろうか。変な夢だった、どう変だった?
 思い出せない。何で思い出せないのか。もやもやとする、不快感。
 苛立つような。不安になるような、もどかしい、どうすればいいのかわからない感覚。
 叫んでやりたいような、なんともいえない、もやもや。
「……こら。そんな顔をするな」
 こつん、と。
 軽く小突かれた頭を、咄嗟におさえていた。小突いてきたあいつを見上げ、むすっとする。
「うん、その表情のほうがまだマシだ」
「てめぇ……っ」
「てめぇじゃないだろう? 私の名前を忘れたか?」
「忘れてなんかねぇよ……」
 反論しようと口を開いて、けれど、名前が出てこない。
 あれ、何だこれ。
 何で言葉に詰まるんだ。
 いつも一緒にいたやつじゃないか。……いたやつ?
 何で過去形になる。おかしいじゃないか、何かがおかしい。
 変だ。
 何か変だ。
 でも、何が変なんだ。
 自分が変なのか……?
 口を閉ざす。俯いて、何だかわからなくて、不安で。
 そんな自分の頭を、けれどあいつはそっと撫でるから。
 泣きそうになる。
 でも泣かないのは、その撫でる手がとても遠く感じるから。まるで一枚の紙を隔てたように、現実感を感じないから。
 ああ、そうか。
「……変な夢」
 呟いて、微かに笑んで。
 その笑みが、とても泣きそうなものだったのは、けれど誰にも見られてない。


 夢を、見た。
 とても不思議な夢。わけがわからない、何だこれって思う、夢。
 でも。


 ゆっくりと目を開けて。
 静かに身を起こしてみれば、傍に眠る二人の姿を確認できて。
 ああ、そうかと。
 自分はエレナさんの故郷について行って、今はその帰りなんだと思い出す。野営中なのに、転寝するなんてなんて気の緩みか。一緒に居るエルファール神官の男に笑われる。
 一つ息を吐いて。火の消えかけた焚き火を見た。精霊さんに語りかける。薪をくべ、火の勢いを、少しだけ増してもらった。
 ぱちり、と爆ぜる音。ゆれる火の粉を見つめて。
 小さく、笑んだ。
 涙は流れない。泣きそうなわけじゃないから。
「大丈夫、セイ。私はもう平気」
 そう、大丈夫。もう言葉に詰まったりしないから。
 今度会うときはきっと、名前を呼べるから。


 夢でもいい。
 また、会おう。

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